入社して二年目、初めての人事異動でインフラグループに配属された俺は、歓迎会と称された飲み会に参加していた。歓迎会といいつつ、主役は別にいる。インフラグループ長の早田さんが課長に昇進したため、そちらがメインの飲み会だ。
軽く挨拶だけ済ませて、あとは静かに座っている。あまり騒ぐのは好きではないし、ちびちびと飲みながら人間観察している方が面白い。たまにおっさんくさいだとかつまらん奴だとか言われるけど、仕方ない。これが俺なのだから。
インフラグループには、社内でも美人で有名な朱宮姫乃さんがいる。インフラに異動が決まったとき、まわりから羨ましがられたっけ。
確かに綺麗な人だとは思う。いつもニコニコしていて人当たりもよく、仕事もできる。美人なのに可愛い系? ふわっとした雰囲気がそう見えるのだろうか。ちょっと抜けてるとこもある、と俺は思う。つい守ってあげたくなるタイプというのは、こういう人のことをいうのかな。
「姫ちゃんあっちの席かぁ」
「いつもあの二人に守られてるんだよな。ガードが堅いわ」
同じテーブルの先輩たちが、残念そうに言う。
俺は通路を挟んだ隣のテーブルを見る。
朱宮さんを囲うように、パート社員の本橋祥子さんと派遣社員の近田真希さんが、楽しそうにしゃべっていた。
確かに、あの二人に守られてる感あるな……。
「ちょっと大野、あそこ混ざってこい」
「……僕ですか?」
「俺らじゃ無理。きっかけ作ってきて」
……って言われても。
きっかけって、あれか、あのガードを外して姫乃さんをフリーにさせる、みたいな? んで先輩たちが乗り込む、的な?
「……ガード、堅すぎません?」
「だから突破口開いて来いって」
「いやいや……」
ひよっ子の俺に何をさせようとしてるんだ、この人たちは。ニヤニヤしていて、完全に俺で遊ぼうとしている。意地悪な先輩だ。
そのとき、すっと違和感なく彼女たちの輪に入っていく人物がいた。
早田課長だ。